オーストラリア短期就労ビザ(Subclass 400) 申請マニュアル
- 中川 洋志
- 7月12日
- 読了時間: 6分
「オーストラリアの企業から短期プロジェクトの依頼が来た!」
「専門スキルを活かして、数ヶ月だけ現地で働きたい」
そんなチャンスを掴むために避けては通れないのが、ビザ申請です。
特に、短期間の専門的な就労を目的とする場合、短期就労ビザ(Subclass 400: Temporary Work (Short Stay Specialist) visa) の取得が必要となります。
しかし、このビザ申請、ただ書類を揃えれば良いというものではありません。審査官を納得させるだけの「説得力のある資料」を準備できるかどうかが、許可の鍵を握ります。
この記事では、Subclass 400ビザの申請、特に「提出資料」に焦点を当て、ビザ取得を成功に導くためのポイントを、具体的な注意点と共に徹底解説します。
「提出資料」の重要性
Subclass 400ビザは、「オーストラリア国内では得ることが難しい、高度に専門的なスキル、知識、または経験」を持つ人材が、短期(通常3ヶ月以内、最長6ヶ月)のプロジェクト等に従事するために発給されるビザです。
移民局の審査官は、提出された書類のみを基に、以下の点を判断します。
申請者は、本当に高度な専門性を持っているのか?
その仕事は、なぜオーストラリア人ではダメで、申請者でなければならないのか?
申請者は、定められた期間内にきちんと業務を終え、日本に帰国する意思があるか?
つまり、あなたのスキルや渡航の正当性を、客観的な資料を通して証明し、アピールする必要があるのです。口頭で説明する機会はありません。
だからこそ、一つひとつの提出資料が極めて重要になります。
主な提出資料リスト
ビザ申請に必要な書類は多岐にわたりますが、ここでは特に「あなたの価値」を証明するための重要書類を解説します。
1. 現地企業からの強力な推薦状:雇用証明書類
ここが最も重要なパートです。オーストラリアの雇用主が「いかにあなたを必要としているか」を証明する書類です。
招待状(Letter of Invitation)/ アサインレター(Letter of Assignment):
誰が(雇用主)、誰を(あなたを)、いつからいつまで、何の目的で、どのような業務のために招聘するのかを明確に記載します。
雇用契約書(Employment Contract):
ポジション、職務内容、期間、給与、労働条件などが明記された正式な契約書です。報酬額や労働条件が、オーストラリアの基準を満たしていることを示す上でも重要です。
上司や責任者からのサポートレター(Support Letter):
なぜこのプロジェクトにあなたのスキルが不可欠なのか、オーストラリア国内で同様のスキルを持つ人材を探したが、見つからなかった(もしくは困難だった)経緯などを具体的に説明してもらいましょう。これが「オーストラリア人の雇用機会を奪うものではない」という強力な証明になります。
2. あなたの能力を具体的に示す:自己証明書類
次に、現地企業が推薦するあなた自身が、その推薦に値する人材であることを証明します。
英文履歴書(CV/Resume):
これまでの学歴、職歴を羅列するだけでなく、今回の渡豪目的となる業務に直結する実績やスキルを強調して記載します。具体的なプロジェクト名、あなたの役割、そしてどのような成果を上げたのかを数値などを用いて示しましょう。
資格や免許、実績を証明する書類:
保有資格の証明書、過去の論文、メディア掲載実績、プロジェクトの成果物など、客観的にあなたの専門性を示せるものは全て提出しましょう。もちろん、英訳が必要です。
3. 渡航の正当性を示す:活動計画書
「オーストラリアで何をするのか」を具体的かつ明確に提示する資料です。
業務計画書(Work Plan / Itinerary):
滞在期間中、いつ、どこで、誰と、どのような業務を、どのくらいの時間かけて行うのかを、可能な限り詳細に記述します。単なる業務リストではなく、プロジェクトの目標達成に向けた具体的なスケジュールであることが重要です。
旅程表(Travel Itinerary):
出入国のフライト情報(仮予約で可)、滞在場所の情報を記載します。
資料作成「7つの鉄則」
上記の資料を作成する上で、必ず押さえておきたい7つの鉄則をご紹介します。これらを意識するだけで、書類の説得力は格段に向上します。
鉄則1:計画には「余裕」を持たせる
ビザで許可された滞在期間ギリギリの業務計画は、「本当に期間内に終わるのか?不法就労に繋がるのでは?」という疑念を抱かせる可能性があります。プロジェクトの完了日から帰国日まで、ある程度余裕を持たせた計画を提示しましょう。
鉄則2:業務内容は「具体的に」記述する
「コンサルティング業務」「システム開発」といった曖昧な表現はNGです。「〇〇社が導入する新会計システム(SAP S/4HANA)の導入支援。特に、日本の会計基準とIFRSを連携させるモジュールの設計と、現地スタッフへの技術指導」のように、専門用語を交えてでも具体的に記述してください。
鉄則3:「あなた」でなければならない理由を明確に
サポートレターや業務計画書の中で、「なぜその業務がオーストラリア在住者では代替できないのか」を論理的に説明することが不可欠です。例えば、「この製品は日本で開発された特殊なもので、その仕様を完全に理解しているのは社内で申請者のみである」といった具体的な理由が有効です。
鉄則4:実績は「詳細かつ客観的に」アピールする
履歴書には、「〇〇プロジェクトを成功させた」だけでなく、「5名のチームを率い、〇〇という課題に対し△△という手法を用いて、納期を1ヶ月短縮し、コストを15%削減した」というように、役割、課題、手法、成果を数値で示しましょう。
鉄則5:「必ず日本に帰る」意思を明確に示す (GTE要件の応用)
Subclass 400ビザは一時的な滞在を目的としています。そのため、「必ず日本へ帰国する」という意思(Genuine Temporary Entrant - GTE)を証明することが重要です。
日本の職場からの在職証明書や復職を約束する書類
帰国後の具体的な業務計画やキャリアプラン
日本に残る家族がいることの証明
日本での持ち家の証明
これらをレターなどで説明し、オーストラリアに永住する意図がないことを示しましょう。
鉄則6:曜日・時間レベルの「業務スケジュール」を盛り込む
業務計画書には、「1週目:現地スタッフへのヒアリング」「2週目:要件定義」といった大まかな計画だけでなく、「7月15日(月) AM10:00-12:00: 経理部長と現行システムに関するミーティング」「PM1:00-5:00: 議事録作成と課題の洗い出し」のように、曜日や時間まで落とし込んだ詳細なスケジュールを提示すると、計画の信憑性が一気に高まります。
鉄則7:全ての書類は英語で、分かりやすく
当然ですが、提出資料はすべて英語(または翻訳者による英訳を添付)でなければなりません。専門的な内容であっても、誰が読んでも理解できるよう、簡潔で分かりやすい英語で記述することを心がけましょう。
ビザに関する情報は、予告なく変更されることがあります。必ず一次情報であるオーストラリア内務省のウェブサイトで最新の情報を確認してください。
オーストラリア内務省 Temporary Work (Short Stay Specialist) visa (subclass 400)
現地企業と緊密に連携し、説得力のある資料を丁寧に作成することで、ビザ取得の可能性は大きく高まるはずです。
万全の準備でビザ申請に臨み、チャンスを確実なものとされてください。
行政書士佐藤智代法務事務所においても、オーストラリアの短期就労ビザ申請のサポートを承っております。
書類の作成方法や申請戦略など、お気軽にご相談ください。


